お悩み
親孝行が大切なのは分かっています。ですが親と良い思い出がなく、どうしていいか分かりません。
お答え
人間関係の悩みの中で、最も複雑なのは、親子の関係です。
他人なら、どうしてもうまくいかなければ、職場を変えるか引っ越しするか、離れて暮らすということもできます。夫婦でもどうしようもなくなったら、別れるというのもひとつの選択肢です。
ですが、親子関係というのは、どこに行っても親子であることには変わりありませんから、切っても切れない関係です。
親に感謝できない。親への恨みや憎しみが忘れられないという悩みを抱えている人は少なくないのではないでしょうか。
親といってもいろんな親がありますから、親に感謝できない、恨んでいるというのは、親にも問題がある場合も多いです。
しかし、お釈迦さまは、「すべての人は、親から大変な恩を受けているのだよ」と教えられています。
有名な「親の大恩十種」といわれるものですが、その中から、4つ紹介しましょう。
【1】懐胎守護(かいたいしゅご)の恩
これは、母親のおなかの中で十月十日(とつきとおか)、ずっと守ってもらったということです。
激しいつわりのために、やせていく人もあります。そんな中、胎児の骨や歯をつくるためのカルシウムを、母親の血液から分け与え、血液中で足りなくなると、今度は母親の骨を解かしてカルシウムを運ぶといわれます。重病のようになるのも無理はありません。
それでも母親は、心を静め行いをつつしみ、子供の成長を願うのです。
【2】臨生受苦(りんしょうじゅく)の恩
生むに臨みて大変な苦しみを受けるということです。出産の苦しみですね。
ある小学校では、鼻の穴からスイカが出るほど大変だと教えていると聞いたことがあります。
お産の苦しみを陣痛といいますが、陣は戦陣というように、戦(いくさ)という意味ですから、女性にとってお産は戦場にのぞむようなことなのです。
【3】生子忘憂(しょうしぼうゆう)の恩
生まれたわが子を見て、これまでの憂い苦しみを忘れて、喜んでくれたということです。
私たちの名前には、私たちが生まれてきた時の両親の気持ちや願いが納まっています。美咲、健太、幸恵、直人などなど、どんな人の名前も、幸せになってほしい、まっすぐに育ってほしいという願いがこもっています。悪夫とか愚痴子という人はいませんね。
【4】乳哺養育(にゅうほよういく)の恩
生まれたばかりの赤ん坊は時間を問わずお乳をねだり泣きだします。そのため、赤ん坊が生まれて間もなくは、まともに寝る間もありません。
このように、おなかの中で守ってもらい、大変な苦しみを乗り越えて生んでもらった、幸せを願って名前をつけ、寝る間もなく養ってもらったからこそ、今、あなたはここにいるのです。
これらの恩は、誰もが受けているものなのに、誰もが忘れてしまって記憶にすらありません。でも、あなたが今、生きているのが動かぬ証拠なのです。
では、どうして生んで育ててくれた親を恨んでしまうのでしょうか?
それは、自分自身が生まれて、生きていることを喜べていないからです。
「こんなに苦しい人生なら、生まれてこなければよかった」
と、生まれてきたことを恨んでいるから、生んで育ててくれた親に感謝できないのです。
反対に、喜びに満ちた人生を歩むことができれば、両親への感謝の心もわいてくるのだ、とお釈迦さまはおっしゃっています。
そして、そのためには「幸せのタネをまいていきなさい」と教えられました。
このお釈迦さまの言葉どおりに、幸せに生きることができたなら、きっと、親子の関係も変わってくることでしょう。
両親がいなければ、私は生まれることはできませんでした。この世に生を受けなければ、「生まれてきてよかった!」という身になることもできません。
「親の恩を知りなさい」といわれる理由は、ここにあるのです。
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