努力しても、才能がある人にはかなわないのでは


 

お悩み

 夢がありますが、努力だけではこえられないカベを感じています。生まれつき才能がある人には何をしてもかなわないと思ってしまうことがあります。

 

お答え

 小さなタネが巨木となるように、私たちの行いには、結果を生み出すものすごい力があります。

 苦しい時、つらい時、なかなか物事がうまくいかない時、私たちは自信を失ってしまったり、もう頑張っても無駄だと、投げ出したくなったりしてしまいます。


 タネが芽を出そうとしている時、固い地面にはばまれていると、なかなか芽は顔を出せません。
 しかし、苦しくてもつらくても、あきらめずに進んでいけば、固い地面を突き破り、必ず芽を出し、花を咲かせることができます。

 行いには力があるからです。


「偉人」といわれる人たちは、そのことを私たちに身をもって教えてくれています。

 その中でも、片腕でメジャーリーグの選手となったピート・グレイを紹介したいと思います。


 ピート・グレイは1917年、アメリカのペンシルベニア州に生を受けました。
 6歳の時、事故で利き腕の右腕を失います。大リーガーになるのが夢だったピート少年は、父親に、

「片腕じゃ野球はできっこないよ。僕はもう大リーガーにはなれない」

と悲しげに言いました。すると、父親は、

「何を言っているんだ。やる気になればできないことはない」

と励まします。

 右腕は切断されても、夢と希望を失わせたくない、と思ってのことでした。
 その父親の言葉に励まされたピートは、心機一転、人並み外れた努力を始めたのです。

 社会人の草野球チームに入り、朝のうちは1人で練習、夕方は仕事が終わって集まった大人たちに交じって練習しました。

 ピートは、重いバットと軽いバットのうち、あえて重いバットを選んで練習しました。

 左手1本ですから、たとえ軽いバットでも、振るのは容易ではありません。ですが、左手1本でも球速に負けないように、ピートは重くて長いバットを選んだのです。

 しかしそのためには、強い左手の筋力を必要とします。ハンディキャップを克服するために涙ぐましい訓練を続け、ピート少年は、左手1本で重く長いバットで、ヒットを打てるようになっていきました。

 打撃にも増して大変だったのは守備でした。
 ゴロの場合、グローブでボールを軽く空中にはね上げ、その間に右肩の付け根にグローブを挟んで左手を外し、その手で投げていました。その時、左手を深くグローブに入れていたのでは、素早く抜くことができないので、わざわざ指の短いグローブを作って、半分しか手を入れなかったのです。

 しかも少しでも手の出し入れをなめらかにするために、グローブの中の詰め物はほとんどなく、革だけに等しかったのです。そんなグローブでボールを受けたら、痛くて手がしびれてしまいます。

 ペチャンコで指の短いピートのグローブには、文字どおり、汗と涙と血が染み込んでいたのです。

 

 

 こうしてピートは、プロになる機会を求めて野球が盛んなカナダに行きました。
 しかし、片腕のピートを見て、テストすら受けさせてくれません。

 24歳の時にはニューヨークへ入団テストを受けに行きました。ここでも取り合ってくれません。

 そこでピートは、10ドル紙幣を取り出し、

「これは僕の全財産ですが、あなたに預けます。僕に入団テストを受けさせてください。もし、チームの役に立ちそうになかったら、返さなくて結構です」

と言い切りました。

 オーナーは、ピートの自信と必死な態度に打たれて、テストだけは受けさせることにしました。

 そして、このテストに見事合格!
 1942年、晴れてマイナーリーグのプロになることができました。

 しかもその年の打率は、なんと3割8分1厘でトップ。すぐ2Aリーグに昇格し、1944年には3割3分3厘の打率と、ホームラン5本、ホームスチール10回を含む68盗塁という輝かしい成績を上げ、MVPを獲得しました。

 そして1945年、ついに、少年の頃からの夢であった大リーグの舞台に立つことができたのです。


 ピート・グレイの驚異的な信念と努力によるこの結果は、今日も、多くの人を励まし続けています。

 片腕で、大リーグの選手になれたのは、才能やチャンスに恵まれただけではなく、長期にわたっての、ものすごいタネまきがあったからこそです。

 ピート・グレイは私たちに、努力の可能性、つまり、タネまきを続ければ、その行いが力となって、誰も想像しなかったような、大きな結果を生み出すことを教えてくれています。

 

 

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2018年07月16日